「バリ山行」を読んで

第171回芥川賞受賞の作品です。

バリとはバリエーションのことで、「バリ山行」とは、

バリエーションルートの事です。

私たちが山歩きをしていて、使う言葉ですが、地図やアプリなどに登山道とはっきり記されていない道で、

ちょっと危険だけど、面白そうね♪って感じでしょうか?(^^;)

この本で歩いている山は、完璧に「六甲山」で、一番よく歩いている私たちには

「あ~、あそこね」って簡単にわかってしまい、とても楽しく読んでしまいます。

もちろん、本の内容は山だけではなく、主人公が転職した会社の経営や人付き合いに

悩む普通の会社員視点で話が展開するので読みやすかったです。

安定した生活の基盤を維持していくために頑張りながらも、簡単に崩れてしまいそうな不安。

そんな中、会社のサークルで始めた山歩きで一人、バリエーションルートばかりを歩いている同僚がいることを知り、一緒に連れて行ってほしいと頼みます。

そこで描かれていたバリエーションルートは正直、私が思うバリエーションルートとは全く違うものでした。

まさに生死をかけるような山歩き。

道なき道を行くヒリヒリした緊張感と滑落シーンでは身体と心の悲鳴が聞こえてきそうでした。

「山は遊びですよ。遊びで死んだら意味ないじゃないですか! 本物の危機は山じゃないですよ。街ですよ! 生活ですよ。妻鹿さんはそれから逃げてるだけじゃないですか!」

と言うくだりでは、確かにそうかもしれない。

本の趣旨とは外れるけれど、山歩きが趣味である私にとって

山に分け入る高揚感と緊張感、そして日常のしんどさを忘れることのできるあの時間は

とても大事なものです。

この本は、主人公の心の悲哀とバリエーションルートに挑む心の強さを感じたいい本だと思いました。